上野の東京都美術館で開催中の「アンドリュー・ワイエス展」を見に行きました。
20世紀アメリカ具象絵画を代表する画家アンドリュー・ワイエス。戦後、アートの中心がパリからニューヨークへ移るなか、抽象表現主義やポップアートの潮流には加わらず、自身の身近にある風景や人々を描き続けました。
アンドリュー・ワイエスの代表作といえば「クリスティーナの世界」でしょうか。

注)本作は今回の展覧会には出品されていません。
ニューヨーク近代美術館で何度も見たことがありますが、私はこれまで、荒涼とした風景のなかにたたずむ病弱な女性を描いた、どこか孤独で寂しい作品だと思っていました。
しかし今回の展覧会で、その見方が大きく変わりました。
ワイエスはクリスティーナを弱い存在としてではなく、病に屈することなく生きる強い存在として描いていたのです。彼女は数多くの作品に登場し、その姿からはワイエスの深い敬意と愛情が感じられました。
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ワイエスが生涯描き続けたのは、ペンシルベニア州の自宅周辺と、メイン州の別荘周辺の風景。そして登場人物も近所の人々がほとんどです。
芸術家というと、何か特別な経験や劇的な人生が創作の源になるようなイメージがあります。しかしワイエスの作品を見ていると、本当に大切なものや創作の種は、案外すぐ身近なところにあるのだと気づかされます。

自画像 (Self-Portrait) 1945
展覧会の冒頭を飾る本作は、父と甥を事故で亡くした直後に描かれた作品です。悲しみというよりも、運命への怒りのような感情が伝わってくるように感じました。

洗濯物 (Light Wash) 1961
今回の展示では妻を直接描いた作品は見当たりませんでしたが、ワイエスは洗濯物や、妻が摘んだブルーベリーの入ったバケツなどを描くことで、その存在を間接的に表現していました。

雪の朝 (Snowy Morning) 1947
個人的に最も気に入った作品です。ワイエスは屋外を明るく、屋内を暗く描く作品が多いのですが、この作品ではまだ薄暗い冬の朝のため、屋外は暗く、室内には暖かな光が満ちています。
窓辺に飾られたクリスマスリースも印象的で、静かなぬくもりを感じました。

花びら (Petals) 1991
こちらも気に入った作品です。ペンシルベニアの自宅を描いています。2階の寝室の窓が開かれ、鳥のさえずりや風の音が聞こえてきそうな空気感がありました。
ワイエスの作品には死生観を感じさせるものが少なくありませんが、この作品の白い花には生命力が満ちていて、それゆえに特に心に残りました。

オルソン家の終焉 (End of Olsons) 1969
クリスティーナが亡くなった翌年に描かれた作品です。持ち主を失っても風景は変わらずそこにあり、思い出だけが静かに残り続ける。そんなメッセージを感じました。
ワイエス作品に何度も登場するこの家が、《クリスティーナの世界》の背景に描かれていた家だったことにも、今回初めて気が付きました。
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ワイエスと親交のあったオルソン家の家屋は、現在も国定歴史建造物として保存されています
ワイエスの作品には油彩画はほとんどなく、水彩やテンペラを用い、ドライブラッシュと呼ばれる技法が多用されています。水彩画のなかには、日本画を思わせる繊細な表現もありました。
独特のスモーキーな色彩と静謐な空気感。そして身近な世界を深く見つめ続けた姿勢には、デンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイに通じるものを感じました。
沈黙の中に、ワイエスのモデルへの愛情や風景への愛着が息づいており、その創作の源泉に触れたような気持ちになりました。
































