serendipity diary

Art, Books, Cinema, Dining and Entertainment

吉田修一「路(ルウ) 」

吉田修一さんの小説「路(ルウ)」を読みました。

吉田修一 「路(ルウ)」 2012

書店で偶然見つけ、おもしろそう!と手に取りました。吉田修一さんは好きな作家ですが、「悪人」「怒り」など、どちらかというと重く暗いミステリーのイメージがありました。

一方で「横道世之介」のような軽快な青春小説や、「国宝」のような伝統芸術を舞台にした重厚な小説も書かれている。引き出しの多い作家さんだとその魅力を再認識しています。

そして本作は、台湾に日本の新幹線を走らせる、という国家プロジェクトを題材にしています。

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最初は池井戸潤さんのようなビジネス小説かと思って読み始めましたが、むしろ、プロジェクトと何らかの形でかかわる人々の姿を描いた人間ドラマであると感じました。

台湾の街、食、文化、自然、そして人々。それらがとても生き生きと描かれていて、きっと入念に取材をされたのだろうと思っていたら、後から吉田修一さんが大の台湾好きで、何度も台湾を訪れていることを知りました。

台湾の魅力がいっぱいつまっていて、読み終えた時には台湾がとても身近に感じられるようになりました。

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主人公は総合商社に勤め、このプロジェクトの一員に抜擢され、台湾に駐在することになった春香。彼女の誠実で真剣に仕事に向き合う姿、明るくて健康的なところに魅力を感じました。

彼女のおかげでこの小説が大好きになったといっても過言ではありません。私は芦田愛菜さんをイメージしていましたが、すでにドラマ化されていて、波留さんが演じていたことを知りました。

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春香と人豪の、互いに惹かれ合いながらも、安易に恋愛に走らず、互いを尊重する関係もすてきでした。(吉田修一作品でこういうのはめずらしいのでは?)

戦後の台湾からの引揚者、勝一郎の若き日の台湾時代のエピソードには、夏目漱石の「こころ」を思い出しました。彼のその後の中野との和解には涙があふれてしまいました。

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悪人が全く登場しないのも、吉田修一作品ではめずらしいような気がしました。(誰もが持っている人間の弱さ、醜さを描くのも彼の小説の魅力ではありますが)

最後には新幹線プロジェクトが無事に成功を収めますが、吉田修一さんの台湾愛あふれる結末に意表を突かれました。

KNOCK CUCINA BUONA ITALIANA @六本木ヒルズ (2026.02)

映画を観た後、六本木ヒルズ内にあるイタリアンレストラン「KNOCK CUCINA BUONA ITALIANA」で、遅めのランチを楽しみました。

このお店は、第1号店が六本木ヒルズ前にオープンした頃(その後、六本木ヒルズ内へ移転)からのお気に入り。これまでにも何度かブログで紹介しています。

serendpt5.hatenablog.com

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今回もサラダとパスタ2品を注文し、シェアしていただきました。

『キャベツとポテトのジュリアンサラダ』 ツナのピエモンテーゼ
Shredded cabbage & fried potato salad
with tuna sauce(tuna, anchovy, egg, caper), almond, fresh cheese

ざく切りキャベツのコールスローの上に、極細のフレンチフライがたっぷり。混ぜながらいただくと、しゃきしゃきとざくざく、2つの食感のコントラストが楽しい一皿です。

お店の人気メニューでもあり、訪れるとついオーダーしてしまう定番です。

クラッシュエッグ&とろけるチーズ 『ミートソース』
Spaghettini with egg, melty cheese & meat sauce

ミートソースの上に、クラッシュしたゆで卵ととろけるチーズをのせたスパゲッティ。最初に見たときは、とろとろのオムレツかスクランブルエッグかと思ったので、まさかのゆで卵に驚きました。

ミートソースに温泉卵を合わせたパスタはいただいたことがありますが、ゆで卵は初めてです。まずはそのまま味わい、途中から全体を混ぜ合わせていただいたところ、クリーミィで濃厚な味わいになりました。

マッシュルームで 『デュクセル・ブラウンソース』スパゲティ
Spaghetti with mushroom, bacon, mushroom paste, garlic & red pepper

厚切りの大ぶりなマッシュルームと、ぶつ切りのベーコンを豪快に合わせたスパゲティです。。

デュクセル・ブラウンソースとは、後で調べたところによると「刻んだマッシュルーム、玉ねぎ、ハーブをバターで炒めて旨味を凝縮させたデュクセルに、デミグラスベースのブラウンソースを加えた濃厚なフレンチソース」とのこと。

深みのあるソースがパスタによく絡み、仕上げに散らされたパセリのほろ苦さと食感がよいアクセントになっていました。

クライム101

久しぶりに映画館へ足を運びました。過去の記事を振り返ってみたところ、なんと5か月ぶりでした。今回観たのは、クリス・ヘムズワースとマーク・ラファロが競演するクライムアクションです。

クライム101 (Crime 101) 2026

スティーブ・マックイーン&フェイ・ダナウェイ主演の「華麗なる賭け」(The Thomas Crown Affair)のオープニングを思い起させるポスターがかっこいい。

映画を見ながら、前日にNetflixで観た『ヒート』とどことなく似ていると感じていましたが、後で公式サイトを確認したところ、「名作『ヒート』に続く…」とあり、なるほど、それでNetflixで配信されていたのだと腑に落ちました。

名作『ヒート』ほどの圧倒的な緊張感には及ばないものの、本作も映画館の大きなスクリーンで見るのにぴったりの迫力ある作品でした。

物語は、ベテラン刑事ルー(マーク・ラファロ)と、彼が追う連続強盗犯マイク(クリス・ヘムズワース)の攻防を描きます。

犯行はロサンゼルスからワシントン州へと続く西海岸のルート101沿いで発生。ルーは一連の事件が同一犯によるものだと確信します。

一方のマイクは、ある黒幕の指示で強盗を重ねるものの、「決して人を撃たない」という独自のルールを守る犯罪者。そのどこか臆病で陰のある人物像を、クリス・ヘムズワースが抑制の効いた演技で体現しています。

無精ひげを生やし、マイティ・ソーなどで演じた、若き日の“王子様”のイメージとは異なる役どころですが、意外にもしっくりとはまっていました。彼もすっかり大人になったのだなーと感慨深く思いました。

ちなみに 101 という数字は、本作では西海岸を縦断する国道の名称ですが、アメリカの大学では「入門編」を意味する授業番号でもあります。転じて、実用書でも “Holiday Baking 101” や “Home Decorating 101” といったタイトルをよく見かけます。

そう考えると、マイクが「人を撃たない」いわば「犯罪初心者」であるという意味も兼ねているのかな? そんなことを想像しました。

最近お気に入りのモニカ・バルバラが出演していたのもうれしいサプライズでしたし、ハル・ベリーのほろ苦い役どころも心に沁みました。バリー・コーガンの不穏さも健在で、彼を見たとたんに緊張感が走りました。

というわけで、久しぶりの映画館での時間を大いに堪能しました。

ヒート

Netflixで1995年のクライム映画「ヒート」を観ました。

ヒート (Heat) 1995

日頃「ヴァイオレンスは苦手」と公言している私ですが、一方でマフィア映画は大好き。フランシス・コッポラ監督の「ゴッドファーザー」シリーズや、スコセッシ監督のマフィア映画をこよなく愛しています。(とはいえ、タランティーノ作品は少し苦手なのですが。)

本作はマイケル・マン監督の代表作で、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノというマフィア映画の大スターが競演する、なんとも贅沢な至福の一本。

これまで存在を知らずに見逃していたことが悔しくなるほど、ほれぼれする魅力にあふれた作品で、3時間近い上映時間もまったく気にならないほど夢中になって観ました。

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デ・ニーロ演じるニールは犯罪グループのボス。しかし、その存在は表向きにはほとんど知られていないというのが興味深いところです。

一方、パチーノ演じるヴィンセントはロサンゼルス市警のエリート警部。凶悪事件ばかりを担当しているため、家庭は崩壊し、三度目の妻との関係も破綻寸前という状況です。

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物語の構図としては、ニールが追われる者、ヴィンセントが追う側。しかし本作の面白さは、どちらが悪役でどちらがヒーローなのか分からなくなるほど、両者ともにかっこよく、魅力的に描かれている点にあります。

恰幅がよく、スーツを完璧に着こなし、難解そうな金属工学の本(それも犯罪計画のためなのですが)を読み、女性にも誠実に接するニールは、表面的には紳士そのもの。むしろ家庭を顧みないヴィンセントの方が悪者に見えてしまう瞬間すらあります。

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ニールたちが証券輸送車を襲うド派手なオープニングから一気に引き込まれました。あれほどの大騒ぎを起こしながら一切の手掛かりを残さない手際の良さに、ヴィンセントはプロの犯行だと即座に見抜き、部下たちに的確な指示を飛ばします。

無記名証券をまんまと手に入れたニール。しかし、その際に一人の仲間を取り逃がしたことが、物語の終盤まで尾を引くことになります。

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本作の魅力は、極悪人であるはずのニールが見せる人間くささ、人間の弱さにあるのかもしれません。愛する女性のために過去を捨てる覚悟を決める一方で、最後の最後にウェイングローへの執着を捨てきれなかったこと。

あそこで復讐にこだわらなければ、無事に逃げおおせることもできたはずなのに…。そう思う一方で、その選択こそが、彼の人間らしさを際立たせているとも思いました。

銀行強盗時の壮絶な銃撃戦、そしてラストの息詰まるぎりぎりの攻防。重厚なドラマと圧倒的なアクションが融合した、見応えたっぷりの作品でした。

和牛すき焼き そしじ 麻布十番店

麻布十番商店街に新しいすき焼き屋さんがオープンしていたので、ランチをいただくことにしました。

和牛すき焼き そしじ」というお店で、私は今回初めて知ったのですが、2025年7月に軽井沢で創業したばかりの新店とのこと。麻布十番店は2025年12月にオープンしたそうです。

以前サラダ屋さんだった場所が、古民家風に改装されていました。

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お肉は厳選A5ランクの黒毛和牛を使用。私たちは肩ロースの、少し上質なすき焼きセットをいただきました。

初めてのお店だったので、関西風と関東風、どちらかしら?と思いましたが、伝統的な関東風のすき焼きでした。

こんろは丸みのあるころんとしたレトロな形。少し小ぶりの南部鉄器のお鍋に、スタッフの方が割り下とともに具材を美しく並べてくださいます。

やがてぐつぐつと煮えて食べごろになったら、めいめい取り分けていただきます。

卵は、自然に近い環境で育てられた鶏の平飼い卵。ふっくらと弾力があり、黄身の濃さからも品質の良さが伝わってきます。最高品質のお肉を受け止めるにふさわしい卵だと感じました。

おだしを入れた小さなやかんもレトロでかわいらしく、細部までのこだわりが感じられます。

こちらのお店は、なんとごはんが別注です。土鍋ごはんには、京都の米屋「八代目儀兵衛」から、すき焼き用に特別にブレンドされたお米を使用。土鍋でふっくらと炊き上げられたごはんは格別のおいしさでした。

土鍋ごはんは二合炊きで、二人では食べきれない量でしたが、残った分はおにぎりにしていただき、持ち帰ることができました。

創業間もない新しいお店ですが、それだけに素材や器具へのこだわりと、「最高のすき焼きを提供したい」という意気込みが伝わってきます。機会があれば、またぜひ訪れたいと思います。

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すき焼きといえば… 私のくだらない話を少々。私はかねてから、自分の人生最後の晩餐は「人形町今半さんのすき焼き」と決めていました。

自分がすき焼き好きというよりも、家族がおいしそうにすき焼きを囲む姿を最後に眺めながら、人生最後の食事にしたい。そんな思いがあったのです。

ところが、「小石川わたべさんのうなぎ」をいただいてからは、こちらも捨てがたいと思うようになりました。夏ならわたべさん、冬なら今半さんにしようかしら……と、私の妄想は今も続いています。

有吉佐和子「仮縫」

有吉佐和子さんの「仮縫」を読みました。

有吉佐和子「仮縫」 1963

ファッションが好きなこともあり、すてきな表紙にひと目で惹かれました。「ひょっとしたら読んだことがあるかも……」と本屋でページをパラパラめくったところ、私が読んだのは山崎豊子さんの「女の勲章」だったことを思い出しました。

「女の勲章」もたいへんおもしろかったですが、本作も冒頭からノンストップで、ぐいぐいと読ませる力があります。オートクチュールのメゾンとはどんな場所なのか? 想像をふくらませながら、わくわくして読み進めました。

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主人公は、洋裁学校に通う清家隆子。日本で唯一のオートクチュールデザイナー・松平ユキにスカウトされ、メゾンの針子となります。待針拾いをはじめ、どんな仕事にも積極的に取り組む姿勢がユキに認められていきます。

ユキの仕事ぶりを傍らで学びながら、いつか自分の店を持つことを夢見る隆子。ユキがパリへ長期滞在するあいだ、メゾンの留守を任されることになり、その夢はすぐ手の届くところまで来ているかに思えましたが……。

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隆子を見ていて、何も怖いものがなかった二十代前半のころの自分を思い出しました。知識も経験もないのに、自分には無限の可能性があるように思えた時代。大人に生意気なことを言っては、それをおもしろがられることが快感だった、あの頃。

ユキがどのようにして唯一無二の地位を築いたのか、そのからくりも興味深いものでした。戦後にのし上がった富裕層を気持ちよくさせ、たっぷりと代金をいただく。

一方で、戦後に落ちぶれた華族からは一円も受け取らず、晴れの場で着てもらうことを何よりの宣伝とする。ユキはデザインやセンスだけでなく、商才にもずば抜けたものがあったのだと思います。

解説を書いているファッションデザイナーの森英恵さんは、有吉佐和子さんの大学の先輩でもあります。本作のユキは森英恵さんがモデルというわけではありませんが、どこかインスパイアされた部分もあるのではないか、と想像しました。

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すべてを失った隆子。しかし、「女の勲章」のヒロインが悲劇的な結末を迎えたのとは対照的に、隆子は「大人って、凄いな……。」と感嘆します。

「私のこの重たいバッグの中には、パルファンにいた歳月に得たものが一杯詰まっている。」

そして、すぐにも新しい一歩を踏み出そうとする隆子の意欲に満ちた強さがまぶしくて、私もまた清々しい気持ちでいっぱいになりました。

映画のよもやま・ひとさら INDEX

映画のよもやま

美女と野獣のピアノ楽譜 2017-05-08

アルビノーニのアダージョ @マンチェスター・バイ・ザ・シー 2017-05-17

3つのボヘミアン・ラプソディ 2018-11-27

ボヘミアン・ラプソディのピアノ楽譜 &スウィーツ切手 2019-02-02

ミシェル・ルグランに捧げる 2019-02-15

ジョーカーの階段 2019-10-22

ジョジョ・ラビットに、ヒトラーがおかんむり 2020-02-01

オーチャードハウスと、ベートーヴェンの「悲愴」 2020-07-15

エンニオ・モリコーネに捧げる 2020-07-19

Everything Happens to Me @レイニーデイ・イン・ニューヨーク 2020-08-01

アップリンク渋谷が閉館 2021-04-23

懐かしいELO @クルエラ 2021-06-06

クロイスターズと、ラベック姉妹のマンボ 2022-03-09

平野さんの「本心」が映画化! 2024-06-22

Hasta la vista, baby. 2024-08-04

ガガの新曲と、ヴェネツィア国際映画祭 2024-09-07

グラディエーターにまつわるウソとホント 2024-12-19

リチャード・チェンバレンと「シンデレラ」 2025-04-05

ダイアン・キートンに捧げる 2025-10-12

パークハイアット東京 @ロスト・イン・トランスレーション 2026-02-08

 

映画のひとさら

ネイサンのジオメトリー・トースト &シネマの中のひとさら 2017-02-10

リスチクャンの”3”の朝食 @ザ・コンサルタント 2017-03-16

シェフズ・スペシャル @ムーンライト 2017-05-29

ダンケルクのジャム食パン 2017-09-17

キーライムパイ @シェイプ・オブ・ウォーター 2018-03-16

半熟卵の朝食 @君の名前で僕を呼んで 2018-06-06

きのこのオムレツと、アスパラガス @ファントム・スレッド 2018-07-05

ヴィクトリア・ホテルの朝食 @ファントム・スレッド 2018-07-06

ティーパーティのキャロットケーキ @プーと大人になった僕 2018-12-14

黒い森のケーキ @彼が愛したケーキ職人 2019-01-19

ピーナッツクリームの朝食 @三度目の殺人 2019-03-03

チャパグリ(ジャージャー麺) @パラサイト 2020-02-16

オリヴィアの顔トースト @ラブ・セカンド・サイト 2021-06-26

レオナルドのパスタ・マリナーラ @オーバーボード 2021-07-23

テッドのフレンチトースト @クレイマー、クレイマー 2026-05-04

 

龍土軒 @西麻布

息子が帰省していたのに合わせて、少し早めに夫のバースデーランチを楽しみました。場所は夫の希望で、西麻布にある仏蘭西料理店「龍土軒」です。

創業1900年。Wikipediaによると、東京で最古の西洋料理店のひとつで、国木田独歩島崎藤村尾崎紅葉柳田國男田山花袋ら、文壇の歴々に愛された名店とのことです。

もとは英国大使館で働いていたコックが、大使館裏に「快楽亭」という店を開いたのが始まり。その後、現在の麻布に移転しました。かつてこのあたりが「龍土町」と呼ばれていたことから、「龍土軒」と改称されたそうです。

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この日は朝から雨が降っていたこともあり、家からタクシーで向かいました。ランチタイムはほかにお客様がいらっしゃらず、なんと貸切状態。思いがけず贅沢な時間となりました。

お名前は失念しましたが、どなたかからの手書きのお手紙が飾られています。アンティークのカップボードも趣があります。

入口側の壁には、パリのムーラン・ルージュの油彩画。そのほかにも、シェフのフランス時代のお写真や受賞の記念品などが飾られていました。

テーブルのランチョンマットには、歴々の方々のメッセージやサインがぎっしり。圧倒されます。

お料理はコースのみ。マダムからこの日のお料理の説明がありました。夫はこの日お酒をいただく気満々だったので、赤ワインをボトルでいただきました。

前菜は、田舎風パテ、生ハム、ラタトゥイユの盛り合わせ。塩味の効いたパテがとてもおいしくて、ワインが進む進む……と言いたいところですが、私は風邪気味で、残念ながらほとんど飲めませんでした。

カリフラワーのポタージュは、とてもなめらかで驚くほど。バターとミルクの濃厚な味わいです。バゲットでぬぐいながら、最後までおいしくいただきました。

メインはペッパーステーキです。付け合わせはブロッコリー、マッシュポテト、にんじんという王道の組み合わせ。焼き加減は尋ねられませんでしたが、完璧なミディアムレア。芳醇なソースが肉汁と相まって、最高においしかったです。

デザートの盛り合わせです。洋梨のシャルロット、プルーンとオレンジのワイン煮、そして季節のいちご。

コーヒー用の角砂糖が入っていたのは、甲冑から作った砂糖入れだそうです。フランスの蚤の市で見つけたものかしら?と想像がふくらみました。コーヒーはデミタスカップで、お代わり自由でした。

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食後のコーヒーを楽しんでいると、厨房からシェフが出てこられてご挨拶くださり、フランス時代のお話やお店の歴史、これまでのお客様のことなど、さまざまなお話を聞かせてくださいました。

今の時代に合った新しいフランス料理も楽しいけれど、日本の西洋文明の黎明期に文人たちが口にしたであろう、伝統的なフランス料理をいただく、という得難い経験でした。

家庭的でほっとする雰囲気にも心がなごみ、また機会があればぜひ足を運びたいと思いました。

有吉佐和子「青い壺」

有吉佐和子さんの小説「青い壺」を読みました。

有吉佐和子 「青い壺」 1976

初出は1976年。約50年前に発表された作品ですが、時代を超えて2025年に大ベストセラーとなったと知り、時を経ても色あせない魅力をあらためて実感しました。

有吉佐和子さんは、私の好きな作家の一人。本作も若い頃に読んだことがあるのですが、私自身、その時から年を重ねていることもあり、今回新鮮な気持ちで堪能しました。

描かれているのは、私たちの親世代でしょうか。女性の生き方、家族のあり方、会社での人間関係など、子ども心にうっすらと記憶に残っていて、懐かしさを覚える場面もありました。一方で、今の若い世代が読んだらどう感じるだろうか、興味を持ちました。

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本作は、無名の陶芸家が作った「経管」と呼ばれる青い壺が、作り手の手を離れ、次々と持ち主を変えていく物語です。壺を手にした人々の人生の一場面が、リレーのように短編形式で描かれています。

十三の物語はいずれも印象深いものでしたが、なかでも私がもっとも心を動かされたのは第一話です。青い壺を作った陶芸家と、その妻の物語。劣等感を抱えた気難しい夫を、明るく支え続ける妻の姿に心を打たれました。

子どもの前では夫をさりげなく立て、ふだんは仕事に口出しせず、それでも最高の出来の壺が焼き上がれば、ともに心から喜ぶ。夫の自尊心が傷ついたと思えば、陰でそっとフォローする。

今の時代にはあまり見られない、夫唱婦随、良妻賢母の姿がそこにありました。古い価値観には違いないし、称賛するわけではありませんが、古き良き時代の美しい夫婦の形だと思いました。

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第三話も印象的でした。見合い結婚から恋愛結婚へと移り変わる過渡期の時代。上司が目をかけている部下の女性と、自分の甥を自宅で引き合わせようとしますが、女性にはある秘密があった、という物語です。

当時はシングルマザーという言葉はまだなく、未婚の母と呼ばれていたことを思い出します。甥と叔母の軽妙なやりとりも楽しかったし、甥がユーモアたっぷりに話す男女の駆け引きにも、どこかおおらかさを感じました。

第九話では、おばあちゃまたちが大学時代の友人と京都旅行に出かけ、大騒ぎを繰り広げます。私は大学卒業後に卒業生のゼミに参加していたのですが、作中のおばあちゃまたちの会話を読みながら、当時の大先輩方の和やかな会話を思い出しました。

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本作では、いくつか心当たりのある場所も登場します。

第八話で、芝の増上寺前にあるフレンチレストランとあるのは「クレッセント」のこと。訪れたことはありませんが、子どもの頃に読んだ倉橋由美子の小説「聖少女」に登場し、いつか行きたいと思っていた憧れのお店でした。

しかし後で2020年に閉店したと知りました。訪れる機会を永遠に失ってしまったことが悔やまれます。

第十話に登場するスペイン系のミッションスクールも、すぐに思い当たりました。学生時代にその学校出身のクラスメートが何人かいたからです。後になって有吉佐和子さん自身もその学校の出身だと知り、なるほど、と納得しました。

パークハイアット東京 @ロスト・イン・トランスレーション

この日、パークハイアットに行ったのは、ここがソフィア・コッポラ監督の映画「ロスト・イン・トランスレーション」の舞台だったからです。

この映画が好きで、いつかスカーレット・ヨハンソンが演じたシャーロットのように、高層階から東京の街を眺め、感傷に浸って?みたいと思っていました。

レストランから見る東側の眺め。手前に見える三角屋根のビルは代々木のドコモビル。その向こうに広がる緑は明治神宮の森。はるか遠くにはスカイツリーも見えます。

映画の中で、シャーロットが眺めていたのも、きっと同じ方角の窓だったのでしょう。

余談ですが、写真を探していると、このホテルに宿泊した外国人観光客が、窓際で同じポーズを取っている写真がSNSにたくさん見つかりました。^^

少し左に視線を移すと、手前には東京都庁舎、その奥に、ペンのキャップのように突き出て見えるのが東京モード学園の建物です。

シャーロットも、きっとこの景色を目にしていたことでしょう。

ここは、私が食事をしたジランドールと同じ41階にある「ピークラウンジ」。たしか、ボブ(ビル・マーレイ)は、ここで朝食を食べていたのではなかったかしら。

シャーロットとボブがお酒を飲んでいたのは、ニューヨークバー。二人は、言葉の通じない異国の地で、それぞれのパートナーと理解し合えない孤独を、なんとなく分かち合っていました。

二人がカラオケをしていたのも、このバーだったでしょうか。私の記憶に残っているのは、誰かがカーリー・サイモンの「Nobody Does It Better」(映画「007 私を愛したスパイ」の主題歌)を歌っていた場面です。


www.youtube.com

この映画は、たしか日本語の場面には字幕を付けずに、アメリカで公開されたと聞いています。そうすることで、観客は誰もが、シャーロットやボブと同じ孤独や不安を追体験できるというわけです。

今思うと、実験的なアイデアに富んだ作品だったのだと感じますが、私たち自身もまた、ソフィア・コッポラ監督の目となって、彼らが見ていた日本を追体験できるところが、とても興味深いです。