小説4冊の感想をまとめてアップします。

平野啓一郎さんの最新作は、「もしもあの時、こうしていたら?」をテーマにした短編集。心を揺さぶられるほどではなかったものの、どの作品も読みやすく、自分を重ねやすい内容でした。
表題作「富士山」では、婚活で出会った男性と旅行することになった女性が、旅の途中で出会った少女を助けるため、男性を置いて旅を中断する展開に。後味の悪い結末ですが、この二人はいずれにしても、うまくいかなかったような気がします。
「息吹」は、かき氷屋が満席で入りそびれたことがきっかけで、大腸内視鏡検査を受けることになった男性の話。おもしろかったですが、男性のこだわりが強すぎて、かき氷のくだりが何度も出てくるのがちょっとしつこかったです。
「ストレス・リレー」は、ある人が別の人にストレスをぶつけ、その人がまた他の人にストレスをぶつけて...という、ストレス版ピタゴラスイッチみたいな物語。因果はめぐるけれど、断ち切ることもできると考えさせられました。

地元の本屋さんで見かけて、おもしろそう!と購入した本。読み始めて、ベトナムの留学生が登場したあたりで、以前読んだことを思い出しました。^^; その時も今回も、理系博士の書いた小説ということで、興味を持ったのだと思います。
5編からなる短編集ですが、どの主人公も人生につまずき、孤独や悩みを抱えています。そんな彼らが、ふとした“科学”との出会いによって励まされ、少しずつ前を向いていく様子が描かれています。
どの物語にも、ちょっぴり気弱で不器用に生きる人たちに寄り添い、そっと背中を押すような、作者の優しさが感じられます。人に厳しい昨今だから、こういう小説が求められているのだろうな、とも思います。
私の好みの作風ではないのですが、読み終えた後に温かい余韻が残る作品集でした。

「バリ山行 (さんこう)」とは、正規の登山ルートを外れ、道なき道を進む登山のことだそうです。本作では、登山初心者の波多の視点を通して、同僚の妻鹿 (めが) の姿が描かれます。
妻鹿は、地下足袋に軽装で六甲山系を一人でバリ山行し、会社でも付き合いのない変人と思われています。小説にも名前が出てきますが、私は新田次郎の「孤高の人」のモデルとなった加藤文太郎を思い出しました。
妻鹿は職場でも、会社の方針を無視して独自に取引先との関係を続けるなど、正直、私は妻鹿のような人とは相いれないと感じました。クロスカントリースキーで勝手にコースを外れて遭難する人といった印象で、私の苦手なタイプです。
とはいえ、登山と生き方を重ねて描いているところは興味深く、楽しみながら読めました。

奈良で立ち寄った本屋さんで偶然見つけて購入。ちょうど柚月さんの小説が読みたいと思っていたところでした。
本作は地方都市を舞台に、地元警察の不祥事を描いた作品です。主人公は、地元にUターン就職した警察職員の泉。彼女の元同級生で、地元紙の記者だった千佳が謎の死を遂げたことをきっかけに、泉は同僚の磯川と共に真相を探ろうとします。
一筋縄ではいかない複雑な問題が絡み合い、きれいごとだけでは済まされない組織の闇が浮かび上がります。もし自分が泉だったら、巨悪に立ち向かう勇気が持てるかどうか、自信がありません。
登場人物の多くが何かしらの”闇”を抱えていることに暗澹とした気持ちになりながらも、主人公の清潔なキャラクターに救われました。